2・彼とあたしのバレンタイン 「……チョコだ」 本日2月14日、バレンタインデー。別名チョコレート戦争の日。 今朝、学校に到着してからのあたしの初の発言は友達への「おはよう」という挨拶でもなく、 「寒いねー」という言葉でもなく、「先輩、あたしのチョコ受け取ってくれるかなあ……」でもなく、 その一言だったのである。 午前8時30分、朝のHRの始まる約1時間前、人気もまばらな玄関でぽつりと、 何で…?という誰に問うでもない独り言が零れた。 意味が分からないながらも、とりあえず、自分の下駄箱に入っている綺麗にラッピングされた長方形の箱に手を伸ばす。 「………」 手に取ったそれを、言葉無くじっと見つめた。 バレンタインデーに、こんな不思議そうな目でチョコレートを見つめる人間もなかなかいないだろう。しかしあたしには何故自分の下駄箱にチョコレートが入っているのか、全く理解できなかった。 薄いピンクの包装紙に包まれ、これまたピンク系統のリボンを三重に結んである箱。 小さな造花がリボンの中心に飾られている。 ほのかに香るカカオの甘い香りと、ちょこんと添えられた『HAPPY VALENTINE DAY』と 白地にピンクのインクで印刷されたカード。 ――――チョコ、だろう。チョコのはずだ。チョコに違いない。 しかし何故チョコがあたしの下駄箱に………? 例えば今日が自分の誕生日だとか、そういことならバレンタインデーのチョコに見せかけた誕生日プレゼントかな?とも思えるんだろうけれど。 今日はあたしの誕生日ではない。絶対違う。 あたしの誕生日は3月14日のホワイトデーだ。まだ1ヶ月も前である。 誰か1ヶ月も早めにくれたのだろうか、いやいや、そんなはずはあるまい、とあたしは首を横に振った。 バレンタインデーとチョコレート。これらは切っても切れない関係だ。 むしろイコールで繋がっていると言っても過言ではない。 だから、チョコレートが今日下駄箱に入っているというのは別におかしくはない。 他校ではどうなのか知らないが、うちの学校では下駄箱にチョコやプレゼントを入れておくという行為が未だに行われていて、二色君の誕生日なんて下駄箱からプレゼントが溢れかえっていたという話である。 そうだ、そうなのだ。二色君の下駄箱にこのチョコレートが入っているのなら理解できるのだけれど、何故あたしの下駄箱にこんなものが入っているのだと、あたしは首を傾げた。 「んむむ………」 可愛らしいチョコを眺めながら、はあ、と息を吐き出した。 未だ白くなる吐息に、春はまだかなぁと暖かな季節を恋しく思う。 しかし、このチョコ……あたし、女の子なんですけど。とあたしは心の底から疑問に思った。 いったい誰がわざわざ女の子の下駄箱にチョコを!あたしは「お姉さま!」とか言われて後輩に慕われるタイプでもなきゃ「うふふ、私の可愛い子猫ちゃん」 とか言われて先輩に可愛がられるタイプでもない。 それならどうしてあたしの下駄箱にチョコが入ってるのだ。 考えれば考えるほどわけが分からなくなってくる。 「ううー……」 朝ご飯を食べたばかりとはいえ、甘いものは別腹。 あたしの?あたしのなの?このチョコ。食べていいの?食べちゃっていいの?! そんなわけはないけど、甘いもの大好きなあたしの下駄箱にチョコが入ってるなんて、 どうぞ食べてくださいって言ってるようなものだ。 もしかしたら妖精さんが置いていったのかもしれない!昨日掃除頑張ったもんな! そんなことありえないとは分かっているけれど、その他にいったいどういった理由で あたしの下駄箱にチョコレートが混入してくるっていうのだ。 むむむむむ………と眉を顰める。 「どうしよう、落し物入れに突っ込んでこようかな」 そう呟いた瞬間、ぱさりと音を立てて添えてあったカードが落ちた 面倒だと思いながらも、よいしょとしゃがんでカードを拾う。 このときのあたしがどれほど間抜け面だったか、なんて言わなくても分かる事、なのだ。 |