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花鬘<ハナカズラ>







散歩の許可が出て、庭をうろちょろしていると、どこかから「リドウ様ぁー?」と誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
誰か探してるのかな、なんて思った瞬間、がさりと近くの茂みが揺れる。

「あ」

茂みからひょいっと出てきたのは、おそらく17〜18歳くらいの、同じ年頃の男の子だった。
私に着いてきていたメイドさんたちが「リドウ様!?」と驚いたような声を上げる。

誰だろう。呼び名に敬称が付くから多分偉い人だと思うのだけど。
そんなことを思いながら、そのリドウ様とやらに視線を送る。
短い黒髪に、黒い瞳。異世界人なのでちょっと身長が高すぎるが、同じ学校に通う同級生だといわれれば何の違和感もない。
服装もクリーム色の簡易なシャツと黒っぽいズボンというラフっぷりだ。
腰に差してある剣にちょっと違和感を覚えてしまうくらい、普通の男の子である。
彼はメイドさん達に見つかって観念したのか、「残念」と肩をすくめた。

「リドウ様ぁー?どちらですかああああー!早くしないと先生がいらっしゃいますよおおおおー!」

先ほどから目の前の彼を呼び続けている誰かの声。
最後はもう泣き声が含まれている。
メイドさんたちの視線の先で、リドウ様とやらはへらへらと笑って、ぷらりと右手を挙げた。

「はいはーい、ここー」
「もおおおおおー!リドウ様っ!どうしてっ、どうしてもうじき先生がいらっしゃるのが分かっていてお外に出られるのですかあああー!」

リドウと呼ばれる彼に泣きついているのはやっぱり同じ年頃の、ふわふわブロンドヘアの少年だった。
少年というか“美”少年といっても差し支えないかもしれない。まるで天使みたいな可愛さである。
彼にぴーぴー言われながら、楽しそうに笑っているリドウ様は、私を視界に入れて何かに気付いたように「あれっ」という表情をした。

「?」
「もしかして、兄上の次のイーアか?」

お兄ちゃん、の、イーア(お姉ちゃん)……?ええと?
すぐには言葉の意味が理解できない私をじろじろと眺めつつ、「そうだろ?」と私の周囲のメイドさんたちに尋ねた。
メイドさんたちは「はい、さようでございます」と肯定している。

「ですがリドウ様、“次の”というおっしゃり方は控えてくださいませ」
「あー、はいはい。ごめんって。しっかし前の兄上のイーアもそうだったけど、異世界の女ってのは小さいんだなあ。前の方がもう少しくらいはでかかったんじゃないか?」

早口の言葉は聞き取りづらく、そもそも彼の言葉遣いは聞き慣れた丁寧な物言いとは全く違う。
耳慣れない言葉が多く、私はこっそり首を傾げた。
何を言われているのかさっぱりだ。
ぽかんとしている私の正面で、リドウ様はひょいと腰を折り、視線の高さを合わせる。

「兄上のイーア、お前、名前は?」

ここに来て名前を聞かれたのは初めてのことで、思わず目をぱちくりさせてしまった。
こちらでは私の名前は存在せず、エリー様、と不可解な名前で呼ばれているのだ。
もしくはアーサーが“奥方様(お嬢さん)”、ジークフリードはそのまま“イーア(お姉ちゃん)”と呼ぶか、そのくらいだ。
名乗ってもいいのか?と少し戸惑ってしまった。
それと同時にシュヴェルツのところで散々練習させられた長ったらしい自己紹介文を思い出す。
あれを実践すべきかとも思ったが、彼がこんなにラフに聞いてきているのにあんな馬鹿丁寧な文章は必要あるまい。
私はそう判断し、「リツ」と自分の名前を告げた。彼は私の返答に、ぱっと笑顔になる。

「リツか、短い名前だな!前のイーアもそうだったけど。俺はリドウな、リ・ド・ウ」
「り、りどー」
「そうそう!よろしく!」

彼の言葉は少しばかり荒っぽいが、決して悪意のあるものではない。
にこにこしながら手を出され、握手か?と思いながらこちらも手を差し出すと、手にキスをされてしまった。
こちらではこんな普通の男の子も手にキスという照れくさいことをやってのけるのだな、としみじみする。
にこりと笑顔を送られ、私もつられて笑顔になった。
私の笑顔を見た後で、彼は満足気に笑って「じゃあなリツ、また今度!」と美少年を連れてどこかに去っていってしまう。
まるで台風のような出会いに、私は再び首を傾げた。

ええとつまり、リドウは誰だったんだろう。
私のことを、“お兄ちゃんのイーア(お姉ちゃん)”と言っていたはずだ。
ええと私はシュヴェルツとジークフリードのお姉ちゃんだが、シュヴェルツの弟がこんなどこだか分からないところに居るとも思えない。ということはジークフリードの弟か?
―――……ん?んんん?ジークフリードの弟?つまり?

私の弟か!









3人目の弟の存在が明らかになり、私は衝撃を受けたまま部屋へと戻った。
散歩は楽しかったが、衝撃の出会いを果たしてしまった……こうなるといい加減、誰と誰がどのように血が繋がっているのか気になってくる。
誰もどこも似てないしなあと3人の顔を思い浮かべた。

まあジークフリードとリドウは髪と目の色が同じだなあ、雰囲気が全然違うけど。
そうなると私も同じカラーリングなわけで、シュヴェルツ一人だけ異色である。
シュヴェルツだけ両親のどちらかが違うのだろうか。

元の世界では考えたこともなかった、どろどろの関係にちょっぴり身震いしてしまう。
もう考えるのはよそう。シュヴェルツと血が半分しか繋がっていなくたって、シュヴェルツが私を姉と思い、 私がシュヴェルツを弟と思うのなら“きょうだい”なのだ。
そんな精神論で脳内のシュヴェルツを慰めていると、いつの間にやら夕食の時間となっていた。

そしていつものように夕食を終え、入浴を済ませ、メイドさんと本を読みながらおしゃべりの練習をして、さてそろそろベッドに入る時間かなと椅子から立ち上がったとき、奴はやって来た。
誰かというと。

「じーくふりーど……」

もう夜だというのに寝巻きにも着替えず、昼間と同じ格好をしたジークフリードである。
今までお仕事していたのだろうか。それは偉いとは思うが、少しは体を労わったほうがいいのでは。先日も体調を崩したばっかりだし。

シュヴェルツも夜遅くまで働いていたけど、ジークフリードも忙しいらしい。
リドウは割とフリーダムな生活を送っていそうだったけどなぁなんて今日会ったばかりの弟の存在を思い出している間に、ジークフリードはさっきまで私が座っていたソファの隣に腰を下ろした。
な、何だ。どうした。こんな夜遅くに何の用だ?
不思議に思ったのは私だけだったようで、メイドさんたちはどこからかお酒らしき瓶を持ってきた。

えっ、今からここで酒盛りでもするのだろうか。
私はもう寝る時間なのだけど、と眉を寄せたが、普段なら夜更かしを許さぬメイドさんたちも権力者の前ではしおらしく、むしろ寝室に向かおうとする私を「何してんだ!」とばかりに引き止めてきた。
そしてそのまま何故かジークフリードの隣に着席を強制され、更に首を傾げる。

昼間あれだけ会話が弾まなかったことを覚えていないのだろうか。
困ったな、なんて思いつつ、メイドさんにお酌されているジークフリードを見やる。
つまみの類は一切なく、私は「ぱん」と食事を示す単語を口にした。

「エリー様、何か召し上がられますか?」
「いいえ。じーくふりーど、ぱん」

私はつい2時間か3時間ほど前に食事を済ませたばかりで、お腹は空いてない。
しかし、ジークフリードがお酒を飲むつもりなら、お酒だけでは体に悪い。何かおつまみ的なものでもあった方がいいのでは、と父親の姿を思い出す。
お父さんは割とお酒が好きで、おつまみがなくても全然飲める!という人だったが、そういうときは大抵翌日に二日酔いが待っていた。
ジークフリードもそうなるのではないかとやさしい心配をしたのだが、ジークフリードは「いらん」とそのや優しさを撥ね付ける。

ちょっぴりムッとしたものの、もしかしたらジークフリードもすでに夕飯を済ませてきたのかもしれないと思い直した。
それならまあ、つまむものは不要だというのは理解できなくもない。
ジークフリードにはお酒、私には果実を絞ったジュースが用意されたが、いかんせん会話が無い。
お兄ちゃんやさとちゃん相手に「何を話そうか」なんて考えたことはなかったし、シュヴェルツとは“今日覚えた単語披露大会”を開催していたので、会話に困ったことはなかった。

ジークフリードに“今日覚えた単語披露大会”に付き合えといっても断られそうだし……
さてどうするかな、なんて考えていると「庭は」とジークフリードが口を開いた。

「にわ」
「どうだった」
「にわ、とてもすてき、かわいい。おちゃ、き、すてき!ありがとうございます!」

シュヴェルツのところのお庭も素敵だったが、ジークフリードのお庭もなかなかのものだったぞ。お茶の木も見てきた!あんな風なんだねえ!やー楽しい散歩だった、ありがとう!―――そう言ったつもりだ。

ジークフリードはにこにこする私をじっと見つめて、そうか、と頷いた。
うむと頷き、ジークフリードの機嫌をとっておこうとお酌までしてあげる。
シュヴェルツもそうだけど、よくこんな美味しくないものを飲めるな、とグラスを傾けるジークフリードを見つめた。

ふうむ……色っぽい。
普段、ジークフリードとは日中にしか会わないし、そのときは常に机に視線を落としているものだから、こうやってまじまじと顔を見るのは初めてかもしれない。
改めてその顔を眺めてみると、結構整った顔をしているのだなと気付いた。
シュヴェルツのような繊細な美しさはないが、大人の男の色香のようなものがある。
無駄に長い睫毛も通った鼻筋も、よくよく見ればたしかに美形の範疇に入るかもしれない。
しかしジークフリードの場合、常に顰め面で、魔王様ボイスで、見えないバリケードを張っているものだから、美形というよりはとにかく怖いイメージしかない。
楽しくないのに笑うのは難しいかもしれないが、せめてその眉間の皺だけでもどうにかならないものだろうか。
ちゃんと彼女とか奥さんはいるのか?誤解されていないか?と弟その2の恋愛事情をこっそり心配したところで、ジークフリードはすっと立ち上がった。

「部屋に戻る」
「???」

10分にも満たない滞在時間で、交わした言葉はほんの一言二言だ。
何のためにここに来たのだろう。お酒くらい自分の部屋で飲めばよかったのでは。
そんなことを考えながら、私は一応「はらをだしてねるなよ」とおやすみの挨拶を口にした。
その言葉にジークフリードはドアのところで立ち止まり、しばらく動きを止めた後、「……お前がな」と言葉を残して私の部屋から出て行った。


















      


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